貸倉庫における造作買取請求権とは?条件や行使のメリットを解説

貸倉庫における造作買取請求権とは?条件や行使のメリットを解説

貸倉庫を借りて事業をおこなう場合、業務に合わせた棚や建具の取り付け、インフラ設備などが必要なケースがあります。
そこで知っておくと役立つのが、造作買取請求権についての知識です。
今回は、貸倉庫における造作買取請求権とはなにか、対象となる条件や行使するメリットについて解説します。

貸倉庫における造作買取請求権とは?

貸倉庫における造作買取請求権とは?

賃貸借契約を結ぶ際に「造作買取請求権」という言葉を初めて聞く方もいるかもしれません。
ここでは、造作買取請求権の基本的な意味と、貸倉庫における権利について解説します。

造作買取請求権の基本的な意味

造作買取請求権は、借地借家法第33条によって借主に認められている権利です。
造作とは、建具や電気、水道施設などを指します。
造作買取請求権とは、賃貸借契約の終了時に、借主がオーナーの同意を得て、造作を買い取らせられる権利です。
民法第545条第1項によると、原則的に賃貸借契約の終了時には、借主が造作を収去しなければいけないとされています。
しかし、造作買取請求権は、賃貸借契約における例外規定です。
造作の収去に費用がかかると同時に、造作により物件の利用価値が高まる場合は、借主とオーナー両者にとってのメリットが得られます。
ただし、家主が造作の買取義務を負わないよう、賃貸借契約で特約を定めているケースもあります。
その特約がある場合は、造作買取請求権を行使できず、借主は退去時に原状回復をしなければいけません。

貸倉庫における造作買取請求権

造作買取請求権は、貸倉庫や貸工場などの賃貸借契約に当てはまります。
貸倉庫では、入居時に家主の許可を得て、棚や建具、インフラ設備などを取り付けるケースがあります。
原状回復の原則からすると、これらの造作は退去時にすべて撤去することが必要です。
しかし、造作買取請求権を行使すれば、撤去が不要になるだけでなく、オーナーに買取も求められます。
造作の定義は幅広いため、貸倉庫内に設置したあらゆる設備が造作買取請求権に当てはまる可能性があります。

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貸倉庫において造作買取請求権を行使する条件

貸倉庫において造作買取請求権を行使する条件

造作に当てはまる範囲が広いとはいえ、造作買取請求権を行使するためには、一定の条件を満たしている必要があります。
ここでは、条件となる「オーナーの同意」「建物に付加」「便益性」と、特約がある場合について解説します。

条件①オーナーの同意

造作買取請求権を行使する前提条件は、造作がオーナーの同意を得ておこなわれていることです。
入居の時点で造作をおこなうことを家主に伝えていなければ、退去時に買取の要求はできません。
物件に変更をくわえる設備の設置などはすべて、オーナーへ漏らさず伝えるようにしましょう。

条件②建物に付加

建物に付加している造作とは、簡単にいえば建物から取り外して持ち運べないものです。
たとえば、家具や什器などは移動が可能なため、造作には当てはまりません。
持ち運びが可能なものについては、借主が撤去する必要があるものとみなされます。
一方で、電気・ガス・水道などのインフラ設備や空調など、建物から取り外されると造作としての価値が減少するものは「建物に付加されたもの」に当てはまります。
ただし、造作は借主が所有しているものであることも、条件のひとつです。
借主が建物に付加させたものであっても、建物に付合して一体になったものについては、建物の所有者の持ち物となります。
たとえば、断熱材は壁内に一体化して取り外せないため、借主が設置したものであっても、オーナーの所有物の扱いとなるので注意しましょう。

条件③便益性

造作買取請求権を行使するためには、建物の使用において便益性があると認められる必要があります。
たとえば、貸倉庫を借りる場合、業種に応じて必要となる設備を取り付けるかもしれません。
しかし、取り付けた設備が特定の用途でしか使えなかったり、汎用性が低かったりする場合は、造作買取請求権の対象として認められない可能性があります。
一方で、インフラ設備や空調などは業種に関わらず、誰にとっても役立つ設備であるため、造作として認められる可能性が高いです。
便益性は、客観的に判断される必要があります。
入居時にオーナーから設置を許可されていたとしても、必ずも便益性が認められ、造作買取請求権が行使できるとは限りません。
買取を要求できない場合は、原状回復義務が生じ、撤去に費用がかかる可能性もあるので注意が必要です。

特約がある場合

法律上、造作買取請求権は任意規定に属する権利です。
つまり、賃貸借契約の特約で効力を解除できる類の権利です。
旧借家法においては、造作買取請求権は強行規定とされていましたが、1992年の法改正により、現在は特約による拒否が可能となっています。
また、契約違反でオーナーから契約解除を申し渡された場合も、造作買取請求権は行使できないので注意しましょう。

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貸倉庫における造作買取請求権を行使するメリット・デメリット

貸倉庫における造作買取請求権を行使するメリット・デメリット

造作買取請求権を行使することには、借主とオーナーの双方においてメリット・デメリットがあります。
ここでは、メリットとデメリットをそれぞれ2つずつと、特約がある場合について解説します。

メリット①居抜き物件として貸し出せる

退去後に居抜き物件として新入居者を募集できる点は、オーナーにとってのメリットです。
新しい借主からすると、必要な内装や設備を設置する手間や費用が省けます。
そのため、オーナーにとって貸倉庫の貸し出しが有利になるケースもあるでしょう。
とくに、便益性が高い設備を残す場合には、オーナーから喜ばれる可能性があります。

メリット②原状回復の費用が抑えられる

借主側にとってのメリットは、原状回復の費用が抑えられる点です。
家具や什器などの持ち運びができる物品と異なり、建物に取り付けられた造作は、取り外しの手間がかかります。
造作の撤去費用は、高額になるケースも多いですが、オーナーに買い取ってもらえれば費用が削減できます。
ただし、造作以外の部分で修繕が必要な場合は、原状回復義務は依然として生じるため注意が必要です。

デメリット①オーナーから拒否される可能性がある

造作買取請求権を行使しようとしても、オーナーが認めない場合があります。
たとえば、エレベーターのように数百万円の費用がかかる設備については、オーナーが負担を負いたくないと感じる可能性があるでしょう。
ひとつの解決方法としては、借主が自分で新たな借主を見つけ、造作を売却する方法を検討できます。
この方法であれば、オーナーの負担は少なく、物件も空き室にならないため、オーナーとのトラブルを防げます。
しかし、造作の状態によっては、後々不具合が生じた場合などに、旧借主と新たな借主の間でトラブルに発展する可能性もあるため、注意が必要です。

デメリット②買取価格の相違でもめる

オーナーが造作の買取を認めたものの、価格で意見の相違が生じるケースがあります。
造作の買取価格によっては、オーナーにとって大きな負担となるため、値下げを交渉される場合もあるでしょう。
買取において合意が取れなければ、裁判にまで発展する可能性もあります。
トラブルを事前に防ぐためには、賃貸借契約書に造作の買取について、詳細な取り決めを書いておくことが大切です。

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まとめ

造作買取請求権とは、賃貸借契約の終了時に、借主がオーナーの同意を得て造作を買い取ってもらう権利です。
行使するための主な条件は、オーナーの同意で取り付けたこと、建物に付加されていること、便益性があることです。
造作買取請求権は、オーナーにとっては建物の価値を高められて、借主にとっては原状回復費用を抑えられるメリットがあります。